自由研究

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ポルトラノ型海図における海岸線の考察-海岸線の機能に着目して-

 もう大学の担当教員がレポートを評価し終わってインターネットで検索しなさそうということで、レポートを公開したいと思います。ネットで検索されたところで、投稿日が締め切り以降だから大した問題もないんですけどね。(笑)とはいっても、びびって下書きに戻してしいましたが、過去の大学の課題の掲載日を見たら締め切りの三日後とかに掲載しているレポートもあったので、いっかなと思って掲載します。ご迷惑をおかけしました。

 

 さて、このレポートは、珍しくお題設定があり結構きつかったですが、地図とにらみ合いながら書き上げました。話題の範囲が広いという意味で読書の教養の足しになればいいなと思います。

 

目次

 

ポルトラノ型海図における海岸線の考察-海岸線の機能に着目して-

はじめに

 

 本レポートでは、もっとも興味深く感じた空間認識として、ポルトラーノ図の現実の実態に近しいという表所的特徴を取りあげる。

 はじめに、ポルトラーノ図の表象を取りあげる理由を述べる。本題に入る前にまず、地図という名称や地図の見方の癖によって無意識に地図の見方が偏っていることを指摘する。次に、自分自身の地図の見方に偏りがあることを踏まえて、ポルトラーノ図を使う航海者の視点に立って、ポルトラーノ図の正確さが必要となった背景を航海者の視点に立って考察する。最後に、ポルトラノ型海図の正確さに注目し、近世の現実の実態に基づいた世界地図は、中世の情報と海図作成の技術に支えられたて描かれたものと表現できることについて論じる。

 

ポルトラーノ図の表象を取りあげる理由

 ポルトラーノ図の興味深く感じた点は、二点ある。

 ポルトラーノ図は、現実の実態に近しい図あるため、ポルトラーノ図の製作者は、どのようにして地の形状を正確に捉えたのか気になったからである。ポルトラーノ図を正確と表現する理由は、現代の教科書等に載っている世界地図と概ね似ているからだ。

 その他に、興味深く感じた点は、ポルトラーノ図は海図でありながら、私は地図として認識し地表に注目するという認識の偏りに気づいたからだ。

 

第1章 認識の偏りを誘発するもの 

 ポルトラーノ図の表象について論じる前に、まず、様々な地図、海図を見た時に、認識の偏りを誘発するものとして、地図という名称の偏りを取りあげる。次に、習慣や教育による地図の見方の偏りを取りあげる。

 はじめに、「地図」や「海図」といった名称が、認識の偏りを誘発する可能性があると問題提起する。

カンティーノ世界地図は、正式名称が「インディアスの諸地方で近年発見された島々への航海のための海図」でありながら、「地図」と表現される。日本語話者が、同じポルトラーノ図を見せられても名称が地図、もしくは海図かによって、同じポルトラーノ図を注目する際に陸地に偏るか、海に偏るか、認識の偏りを誘発すると考える。

 次に、無意識に地図の見方が偏っていることをとりあげる。

 地図を日常的に使う人は、地図の認識が陸地に偏っているといった、地図の見方の偏りがある可能性がある。例えば、地球の面積の7割を海が占めているにもかかわらず、地球の面積の3割を占めているに過ぎない陸地に注目するのは、認識が陸地に偏っている、と表現できると考える。

 また、国境線がない世界地図であっても、国境線と世界地図を一緒に見る習慣を教育等で身に着いていたら、世界地図から日本を探すといった、馴染みのある土地に目がいくというがちという見方の偏りだといえよう。この地図の見方の偏りは、地図の見方に癖があるとも表現できよう。

 世界地図を、地図と呼称するのは、現代人もしくは日本語話者の地に認識を向かせ、認識の偏りを誘発させる可能性がある。また、習慣や教育で身に着いた地図の見方の癖は、認識が偏っているとも表現できる。

 以上の、世界地図を見るときに「地図」という名称と、習慣と教育によって身に着いた地図の見方の癖によって、無意識に認識が偏りよっている可能性の反省を踏まえて、考察をはじめる。

 

第2章 ポルトラノ型海図が正確である必要性

 ポルトラーノ図の現実の実態に近しいという意味で正確という表象的特徴に注目し、ポルトラーノ図(以下、ポルトラノ型海図)が正確である必要性について、使い手である、航海者や水先案内人の視点に立って考察する。

 ポルトラノ型海図には、使い手である航海者や水先案内人にとって重要だったことが、海図の特徴にでると考える。ポルトラノ型海図の特徴は、船程線網、海岸線の形状、海岸線沿いの地名、海底の情報のユニークな表現記号、内陸部の空白があげられる¹。

 そのうち、「海岸線の形状は、特に地中海・黒海についてはかなり正確で、現代の地図と比較してもそれほど遜色がない。²」とある。この海岸線とは、海と陸の境界線、を意味する。恐らく、航海者や水先案内人が彼らにとって重要な海と陸の境界線である海岸線を紙面上に引くことによって、陸地の形状も同時に明らかなと考える。

 したがって、正確に海岸線を引く技術によって、正確に世界地図を描くことが可能になったと考察する。

 

第2-1節 海岸線等を正確に描く必要性

 下記、夛田(1996)が述べたポルトラノ型海図の特徴から、なぜ海岸線を正確に描く必要があったのか考察する。

 

 海底の情報をユニークな表現記号で伝えている。すなわち、沿岸海域のところどこには岩礁の存在を示す点描がみられ、また、同じく沿岸に散りばめられた赤い小片は浅瀬の存在を指示している。……これらの記号は、港と目と鼻の先の海域での海難事故を警告する意図で描かれたのであろう。事実13世紀初めのフランスには、船の損失の原因が航海者にあると認められた際には、その者を死刑に処すという法律があり、航海者には海難回避に関するかなりの専門的な知識が要求されていたのである。

引用:夛田祐子,1996,「京都大学文学部博物館所蔵ポルトラノ型地中海図に関する一考察」,『歴史地理学』178,p.3.

 

 ユニークな表現記号は海難事故を警告する意図があった(夛田1996)、という考察を踏まえて航海者にとって重要なことを考察する。

 航海者にとって重要なことは、船で人や貨物を安全に運ぶことであったと考える。航海者は、人や貨物を運ぶと同時に海難というリスクに晒される。船舶が海難に遭遇すると、人命および貨物や船体等の著しい経済損失が生じるため、航海者は海難を防止する必要があったと考える。

 それと同時に、13世紀初めにフランスの船の損失が航海者であった場合は死刑という法律(夛田,1996)も相まって、海難を防止する海岸線等の必要性が強まったと推測する。

 したがって、海難防止がきっかけとなり、海岸線等を正確に描く必要性があったと考察する。

 

第2-2節 海難防止と海岸線の役割

 ここで船が航海中に起こる事故を意味する海難を取りあげる。

 海難の中には、「衝突、座礁、浸水、転覆、火災その他各種のものが見られる³」ことがわかっている。その中でも座礁海難は、世界的に見ても、他の衝突、火災、転覆、浸水や機関故障等と比べかなり発生率が高く、海難件数の首位を占めている⁴。20世紀の海難事故を13世紀の海難事故にあてはめるのは限界があるものの、沿岸海域に岩礁の存在を示す点描や浅瀬の存在を指示していることから、13世紀においても主要な海難事故は座礁だったと示唆される。

 海難事故である座礁を防ぐ第一段階は、陸と海の境目である海岸線の把握であるとすれば、座礁の防止にあたって海図に海岸線を正確に描く必要性がある。

 つまり、航海者にとって海難防止は責務であるため、海難である座礁防止の第一段階として海岸線を正確に把握しておく必要があるから、ポルトラノ型海図には、正確な海岸線を描かれていると推測する。また、ポルトラノ型海図は、座礁を防止するとともに、陸地の正確な把握にも役立ったと考察する。

 

第3章 ポルトラノ型海図の技術と世界地図

 本レポートでは、ポルトラノ型海図に備わっているべき現実の地形に即した正確なものという特徴と技術が、後の世界地図づくりの基礎になったと推測した。

 実際、以下のように、世界地図の一部として採用されたことがわかっている。

中世末期の世界地図には、一部にポルトラーノが採用されている。カタロニア地図(パリ国立図書館所蔵)はその例で、ポルトラーノによる地中海を中心とする詳細な部分に対し、東方はマルコ・ポーロなどの東方旅行をした商人や宣教師の伝えた知識を用いて粗略に描かれている。

 

引用:海野一隆,高橋正,フランク・B・ブギニー(編),1974,「地図の歴史」『ブリタニカ国際大百科事典 12』, ティービーエス・ブリタニカ,pp.728-733.

 

 以上のように、世界地図の一部として採用されているのみならず、世界地図の部分によって正確さがまばらということがわかった。

 さらに、ポルトラノ型海図の技術は、投影法について考慮されていないため、世界地図の作成では不向きではあるものの、プトレオマイオスの世界地図が復活した近世においてもポルトラノ型海図の技術は活用されている。

 

ニュルンベブルクに現存する最古の地球儀でマルチン・ベハイムの地球儀(一四九二年)もこのような性格をもつものであり、地中海を中心とする地域や、アラビア、インド付近はプトレオマイオスによっているが、アフリカの西岸やヨーロッパの大西洋岸はポルトラーノによりかなり正確な海岸線を描き、アジアの東端にはマルコ・ポーロによって伝えらえたカタイ(華北)、マンジ(華南)、チパング(日本)を描いている。

 

引用:海野一隆,高橋正,フランク・B・ブギニー(編),1974,「地図の歴史」『ブリタニカ国際大百科事典 12』, ティービーエス・ブリタニカ,p.731.

 

 上記のようにポルトラノ型海図の技術は、アフリカの西岸及び大西洋岸で正確な海岸線を描くために使われており、世界地図づくりの基礎になったことがわかる。加えて、注目すべきは、ポルトラノ型海図は、大量に生産されたと考えられている⁵にも関わらず、近世最古の地球儀における地中海はプトレオマイオスによっていることだ。

 

おわりに

 本レポートでは、ポルトラノ型海図に注目することで、まず、世界地図を見るときに「地図」という名称と、習慣と教育によって身に着いた地図の見方の癖によって、無意識に認識が偏りよっている可能性を反省した。

 その上で、ポルトラノ型海図の表象である、現代の世界地図に似ているという意味の正確さに注目し、その理由が航海者にとって海難防止のために海岸線の把握が重要だったからだと考察した。

 中世のポルトラノ型海図の情報と技術は、近世の現実の実態に基づいた世界地図を作る上で部分的に採用されていることもわかった。

 よって、ポルトラノ型海図の正確さに注目することで、中世において海難防止のために海岸線の把握等長年にわたり蓄積した海岸線や地名等の情報と海図作成の技術に支えられて、近世の世界地図は描かれたもの、といえよう。

 

 

脚注

¹夛田祐子,1996,「京都大学文学部博物館所蔵ポルトラノ型地中海図に関する一考察」,『歴史地理学』178,p.1.

²夛田祐子,1996,「京都大学文学部博物館所蔵ポルトラノ型地中海図に関する一考察」,『歴史地理学』178,p.2.

³岡本泰久,1977, 「座礁海難と船体強度」,『日本造船学会誌』578号,p.7.

⁴同上.

⁵夛田祐子,1996,「京都大学文学部博物館所蔵ポルトラノ型地中海図に関する一考察」,『歴史地理学』178,p.2.

 

参考文献一覧

・夛田祐子,1996,「京都大学文学部博物館所蔵ポルトラノ型地中海図に関する一考察」,『歴史地理学』178,pp.1-13.

・岡本泰久,1977, 「座礁海難と船体強度」,『日本造船学会誌』578号,pp.7-15.

・若林幹夫,1995,『地図の想像力』,講談社.

・海野一隆,高橋正,フランク・B・ブギニー(編),1974,「地図の歴史」『ブリタニカ国際大百科事典 12』, ティービーエス・ブリタニカ,pp.728-733.

 

以上

 

 

 最後まで読んでいただきありがとうございました。読者の皆様の教養の足しになれば幸いです。

 

 おまけ、地図はオランダ語が語源です。江戸へのペリーによる黒船来航を可能にしたのは海図の普及が一要因です。

 あと、教科書に載っている世界地図という表現は、学生のご愛嬌ということにしてください。そうはいかないと思う人もいるでしょう。ごもっともだと思います。引用は簡単でも、表象の提示もしくは国境や地名のある地図を私は的確に表現することは私はできませんでした。

 

紹介

虎ノ門で企画展をやっているようなので、興味が湧いた人はいってみてはいかがですか。プレゼントもあるみたいですよ。

企画展『日本の「かたち」を描く ─地図・海図編纂にみる領土・海洋認識の変遷─』 | 領土・主権展示館

 

レポートを書いているときに見つけられたら良かったのにと思った論文

仙石新,2018,「海図って何?―その役割と未来―」,『地図』,Vol.56,No.3,pp.19-26.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjca/56/3/56_3_19/_pdf/-char/en